【ネタバレ】『君たちはどう生きるか』感想と、水木しげるの死生観について

公開翌日7/15の20時から、『君たちはどう生きるか』を観てきました。


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最近人生初トトロを観たおかげで「トトロで観たやつじゃん!?」という感動を得られたので良かった……

やはりジブリは観ておかないとね……配信頼むぜ

 

■総評︰おもしろいか?と聞かれるとうーんとなるけど、めちゃくちゃ「良かった」……子どもが思春期を迎えたら一緒に再視聴したい名作

  • 作品の内容についていろいろ言いたいこと、言えることはあるけど、「解釈ゲーム」は他の人に任せたい

主人公は宮崎駿本人だとかいや宮崎吾朗だとか、大叔父は高畑勲だとか、アオサギ鈴木敏夫だとしたら仮にも盟友をひどく描きすぎやろ(CV菅田将暉でも中和できてないw)とか言いたいことはありすぎるくらいある。……がそういうのは海燕さんとか渡辺由美子さんとかノラネコさんの記事を読めばええんや!

家族の死という人生における避けられないものをどうにか受け入れようとあがいたり、学校に行きたくないからわざと怪我をしたり……そんな少年がファンタジーの世界で少し成長して戻ってくるという物語は普遍的なものだし、幻想的なビジュアルも楽しめる。

万人が絶賛する傑作ではないかもしれないが、日本アニメ史に残る名作だと確信している。

 

■気に入らない点

宮崎駿も82歳だし、『君たちはどう生きるか』というタイトルからも宮崎駿らしい死生観をみせてくれると期待していたのだが、その点では肩透かしだった。

  • 「生と死は隣り合わせ、死は忌むべきものではない」みたいなメッセージは正直ありきたりだよな

要するに児童文学というのは「どうにもならない、これが人間という存在だ」という、人間の存在に対する厳格で批判的な文学とはちがって、「生まれてきてよかったんだ」というものなんです。生きててよかったんだ、生きていいんだ、というふうなことを、子どもたちにエールとして送ろうというのが、児童文学が生まれた基本的なきっかけだと思います。(『本へのとびら』p163)

著書でも語っているように、宮崎駿はアニメではずっと子ども向けの物語を描いてきた人であり、未来を担う子どもたちへの希望を託すという姿勢は最後まで崩さなかった。

それは立派だと思うが「病気になったお母さんは病院で焼け死んだけど、その人生は幸福だったし、そして死んだ人も別の世界で幸福に暮らしている」というのは感動的だけど、どうしても生きている人間のエゴを感じてしまう。

お母さんは病気で苦しみ世界を恨んでいたかもしれないし、妹に手を出してる夫にブチギレてたかもしれんし、夫の子どもを妊娠している健康な妹を殺したいほど憎んでいたかもしれない。しかし死んだ人間のマイナス感情など、未来を生きる人間には邪魔なので捨象します……というのはライフハックとしては正しいと思う、めちゃくちゃ傲慢だけど

 

■やっぱり水木しげる先生はすごい

本稿はこれが言いたいがために書いたようなものなのだが、死生観の話になるとやっぱり水木しげる先生はすごい。元のリンクが消えてしまう可能性もあるので孫引きさせていただきます。

同じような話でさ、74、5年のころね。死んだ戦友が眠る場所に行って酒を注いだりしたわけ。でさ、水木さんは「戦争を体験した人が皆、よく戦場跡に行ったりするけど、なんでそこに行くのか自分はよくわからんかったですよ。でも行ってみてやっとわかりました」って言うの。

続けて「戦友が次々と死んでいったところへ来るとですなぁ」って言うから、ま、自分だけ生き延びて申し訳ながいが祖国もこれだけで立派になった、そういう気持ちで来るんだと言うと思うだろ、普通は。

でも水木さんは違うんだよ。「戦友が死んだところに自分一人元気で来るとですなあ、愉快になるんですよ」っていう(大爆笑)もう全然ちがう!「戦友は苦しんで死んでいったのに、自分は元気で楽しく生きている、こんなに愉快なことはない。それを確認しに皆行くんだろう」ってさ、全然違うこというんだよね。

私はこの話が好きすぎるのだ……戦争や震災で生き残った人たちが「私は運命に生かされた、亡くなった人たちの分も生きなければ」と思うのは自然だし感動的だが、水木しげる先生の言葉には「人間の生き死になんて偶然の産物であり、人生に価値などない」というニヒリズムの極致がある。

宮崎駿からも「ヘタクソなアニメーター、芸術の価値がわからないカス、環境を破壊し続ける愚かな人類、全員滅べ!!!」みたいなパンツを脱いだ(by庵野秀明)本音を最後に聞きたかったな〜というのが正直心残りです。

(邪推です。宮崎監督はそんな人間ではないと思います……多分ね)

 

 

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