【ネタバレ】『すずめの戸締まり』感想と、俗情との結託について

昨日11/13の日曜日に、IMAXで『すずめの戸締まり』を観てきました。育児でなかなか映画に行けない中で、公開直後に行かせてくれた家族に感謝……!

せっかくなので感想をメモしておきたいと思います。

 

■総評:いい映画でした

  • 終わり良ければすべて良し

『すずめの戸締まり』というタイトル、一見すると後ろ向き、ネガティブなイメージになりえるものを、外=未来に向かっていくために必要な行為としてポジティブなイメージへとひっくり返すラストシーン、その演出とアニメーションが本当に素晴らしかったです!作品の構造的な美しさとぴったりとハマっていて、非常に良かった。あのシーンを観るためにもう一度劇場に行きたいですわ!

  • 気になる点もある

一晩経って感想を読んだり考えたりして気になる点も出ているので書いておきますが、その前にネタ的なメモも書いておきます。

 

諸星大二郎原作という捏造された記憶

前作『天気の子』ではPCエロゲー原作ネタがありましたが、私は『すずめの戸締まり』を観ながら、(令和に諸星大二郎先生の原作がこんなに美麗にアニメ化されるなんて、うれしいなあ……)という存在しない記憶が出てきて、後半ずっとニヤニヤしていました。

  • 民俗学に詳しいロンゲのうさんくさいイケメン

稗田礼二郎 - Google 検索

f:id:esbee:20221114121131j:image

宗像草太 - Google 検索

(髪型が違うけど名字が同じ)

 

■批判ポイントについて

本作の批判ポイント、いくつかあると思いますが、11/14時点で大きなものは下記かなと思っています。

  1. 自然災害を人間が防げる、つまり防げなかった災害は人災のように描くのはどうなのか
  2. 問題解決のために自己犠牲を求めるのは、前作(天気の子)から後退していないか
  3. 日本全国の災害の記憶を辿る中で、北海道・沖縄が含まれていない

個人的にはどれもそこまで引っかかりは無かったです。

1はフィクションあるあるだしな……となるし、2は確かにダイジンたちがかわいそうだろ!となるけど、自己犠牲をどうやって乗り越えるかは創作全般の課題で、新海監督作品に強く求めるのは酷だよなという気持ち、3は確かにその通りだと思うけど、北海道沖縄のことを浅く扱うほうが問題あると理解できるので……

(それ以外にも、すずめの無鉄砲さ交通安全意識の低さとかあまりにも他人の親切に乗っかってるご都合主義とか、いろいろあるとは思います)

 

自分としては、次の部分が最も気になる点でした。

 

■当たり前のこと(過去は忘れて楽しく生きていこう)を現実の災害を用いてわざわざ言う意義はあるのか?

id:p_shirokuma先生の感想記事に、こんなブコメをしました

生きるって本当はこういうことだ──『すずめの戸締り』雑感 - シロクマの屑籠

私も昨日観てきて、同じ感想を抱くと同時に、「つらい記憶を忘れて楽しく生きていく」ことを肯定するの、現状肯定でしかなくて俗情との結託だよなと。悪いわけではなく、これが国民的作家に求められていることかもな

2022/11/14 08:15
多少星もいただいていますが、同時に名指しではないですが批判もされています。

生きるって本当はこういうことだ──『すずめの戸締り』雑感 - シロクマの屑籠

つらい記憶を忘れて楽しくってのようわからんが(話の流れは忘れていたつらい記憶と向き合い楽しく生きていくって話だったので)、災害にあってもポジティブに生きていけると言う話だと思う。

2022/11/14 08:33

生きるって本当はこういうことだ──『すずめの戸締り』雑感 - シロクマの屑籠

↓いやいや、忘れていた辛い記憶を取り戻して受容する物語だったでしょ。

2022/11/14 09:59

ここでの論点は、「過去を忘れる」と「過去と向き合う・受容する・乗り越える」は異なるか?ということだと思いますが、私としては同じことの言い換えでしかないと思います。

私は災害サバイバーになったり、近い家族を失ったりは幸運にしてまだ経験していないのですが、メンタル的な経験から、過去のつらい記憶から立ち直った、回復したといった経験は、程度の差こそあれ忘却の要素なしではありえないと思っています。つらさの只中では立ち止まることしかできないのが普通の人間でしょう。

 

『すずめの戸締まり』を通じて、私たち観客は、自然災害は避けることができないこと、しかしそれは自然の中でごく短い時間を生きている人間には不可避であり、つらくても忘れて(向き合い、受容し、乗り越えて)前向きに生きていかなければならないという感動的なメッセージを受け取ります。

しかし私はどうしてもそこで引っかかりを覚えてしまいました。

同じシロクマ先生感想へのブコメで的確なコメントがあったので引用します。

生きるって本当はこういうことだ──『すずめの戸締り』雑感 - シロクマの屑籠

面白かったけど、自分は被災していないので面白がっていいのか悩む。当事者の気持ちを考えると手放しで褒める気にならないというか

2022/11/14 12:21
我々観客が、そうだ!辛かった過去を忘れて楽しく生きていこう!と思うのを、もしまだ悲しみの只中にいる方が観たら「自分たちの不幸をエンタメにして気持ちよくなるな!」と憤るかもしれない……。(ただ実際に被災された方はポジティブに受け止めている人が多いとも聞きます。しかしすべての関係者に確認することは不可能なほど、被害に遭われた方が多くいるということも理解できると思います)

 

東日本大震災から10年以上が経過し、コロナという全人類共通の猛威との戦いを経て共存が叫ばれる時代において、『すずめの戸締まり』は実在の事件や災害をエンタメにすることの意義と暴力性を考えざるを得ない作品でした。

だからこそ今つくられるべき作品であり、ヒットするべき作品である、というのがいまの私の感想です。お読みいただいた方ありがとうございました。

 

■追記

マクドナルドのハッピーセットでもらえるおまけ絵本でめちゃくちゃ涙腺を刺激されたので、みんな読んだほうがいいぜ!(´;ω;`)

 

■追記2

  • 「俗情との結託」については、やしおさんのブログ記事が非常にわかりやすいと思います。

  • 物語の自己犠牲へのアンサーとしては、キラメイジャーが最先端だと思うのですが、他にあれば教えてほしいです(限界を超えた力を手に入れられるパワーアップアイテムに対して、「限界は超えないためにある!」と自分たちで制限時間を設定し、交代で用いることで個人に負担を押しつけないようにする)